キャリパーピストンの揉み出しはシールの原理を阻害する矛盾整備!?

2020年7月17日サブ整備記事,ブレーキ系

バイクのブレーキメンテナンスにおいてキャリパーピストンの揉み出しを行うのが整備に詳しい方であれば常識かもしれません。
しかし、キャリパーの動きの仕組みを確認するとキャリパーピストンの揉み出しはダスト・オイルシールの原理を阻害していることが分かります。
本記事をお読み頂きキャリパーの仕組みを確認してから揉み出しをするかを決めて頂きたい。

今回は、キャリパーピストンの揉み出しはシールの原理を阻害する矛盾整備について解説します。
是非、参考にして頂きたい。

キャリパーピストンの揉み出しとは

ピストン揉みだし-2キャリパーピストンツール揉みだし

キャリパーピストンにシリコングリスを塗布し、キャリパー内を出し入れする作業。これにより、キャリパーピストンとシール間の潤滑を行いブレーキのフィーリングが向上する等のメリットがあります。

揉み出しをするメリット・デメリット

メリット

  • キャリパーピストンの固着を緩和できる。
  • キャリパーピストンに虫食い・傷が入っている場合、シールに与えるダメージを緩和できる。
  • キャリパーピストン回りに付着した汚れを取り除くことが期待できる。
  • ブレーキのフィーリングが向上する。

デメリット

  • オイルシール・ダストシールがキャリパーピストンをキャリパー内部へ戻す行為がし難くなるので、軽度のブレーキ引きずりを助長する可能性がある

ブレーキが制動する流れ

  1. ブレーキレバーを握る
  2. ブレーキホース内に充填されているブレーキフルードが圧縮される
  3. 圧縮されたブレーキフルードはキャリパーピストンを押し出す
  4. キャリパーピストンは、ブレーキパッドを押し出す
  5. ブレーキパッドはブレーキディスクを挟み込む
  6. ブレーキが制動する

シールがキャリパーピストンを押し戻す仕組み

キャリパーピストンを押し出した際、キャリパーピストンはシール(ゴム)の弾性を利用してキャリパーピストンに追従する形でシールが変形して押し出ています。
ブレーキレバーを放すと、変形したシールが元に戻ろうとする力(弾性)を利用してキャリパーピストンをキャリパー内に引き戻すという仕組みです。

シール位置の確認

キャリパー画像引用
出典:オートバイ解説

上記画像の赤い部分が、シールと呼ばれる部分です。
通常、ダストシール・オイルシールと2つのシールが装着されています。

シールの役割

ダストシール

  • ゴミやホコリ等の異物をキャリパー内部へ入り込ませない役割。
  • キャリパーピストンをキャリパーに引き戻す役割。

オイルシール

  • キャリパー内部のブレーキフルードを外部に漏らさない役割。
  • キャリパーピストンをキャリパーに引き戻す役割

このように、シールは異物をキャリパー内部に入れない役割とフルードを外部に漏らさない役割は一般的に知られています。
しかし、キャリパーに引き戻す役割があるのは意外に知られていないことではないでしょうか。

揉み出しはシールの原理を阻害する理由

揉み出し作業は、グリスをキャリパーピストンとシールの間に入り込ませる事で追従する為の摩擦力を低くする事でフィーリングは向上します。
しかし、シールの役割で説明したようにシールはキャリパーピストンに追従することで変形し、変形が戻るゴムの弾性を利用してキャリパーピストンをキャリパー内部に引き戻しています。
揉み出し作業はキャリパーピストンをキャリパー内部へ戻す役割を阻害してしまう為、シール本来の機能を妨げていることになるのです。

揉み出しは行った方が良いのか

揉み出しを行う事で不具合が発生する事は無く、ブレーキのフィーリングも向上します。
オイルシール・ダストシールがキャリパーピストンをキャリパー内部へ戻す行為がし難くなるので、軽度のブレーキ引きずりを助長する可能性がありますが、走行に支障が出るものではありません。
揉み出しするか否かは、オーナー様がお決め下さい。

現場でキャリパーが固着気味の車両を整備する際に、軽度の固着であれば揉み出しを行いますが、あくまで一時的な応急処置と考えており、オーバーホールを行い正常に機能させる事が本来の姿と考えております。

まとめ

  • 揉み出しは、デメリットは無くキャリパーピストン回りのゴミ除去・抵抗を減らすメリットがある。
  • 揉み出しの必要性は無いが、メリットが多くあるので行うか否かはオーナー様次第(自由)。

 

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